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【日本蒙昧前史】磯崎憲一郎が描く昭和後期の実像と現代社会への警鐘

日本蒙昧前史 メディア
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『日本蒙昧前史』について、深く知りたい方へ。

「磯崎憲一郎の新しい文体について、詳しく知りたい」
「昭和40年代から60年代の日本を描いた小説を探している」
「谷崎潤一郎賞受賞作として、どのような特徴があるのか気になる」

本作は、グリコ森永や大阪万博、五つ子誕生、横井庄一のグアムからの帰還など、後期の重要な出来事を独特の視点で描き出した意欲作です。

特筆すべきは、句点をほとんど使わず読点でつなぐ斬新な文体と、実在の事件と虚構を巧みに織り交ぜる手法です。この文体は、フラッシュが立て続けに焚かれるような効果を生み出し、事件や話題が次々と移り変わっていくような独特の印象を与えます。

この記事では、2020年に第56回谷崎潤一郎賞を受賞した本作の魅力を、様々な角度から詳しく解説していきます。

独特の文体が生み出すリズムと臨場感
昭和後期の重要事件を描く新しい視点
現代社会への警鐘としての意義
読者・書評家からの高い評価

蒙昧(もうまい)という言葉には「知識が不十分で道理に暗い」という意味が込められています。本作は現代を「蒙昧」の時代と位置づけ、その前史としての昭和後期を描くことで、私たちの生きる時代に鋭い問いを投げかけています。

『日本蒙昧前史』とは? 磯崎憲一郎が描く昭和の実像

日本蒙昧前史

2020年に発表され、第56回谷崎潤一郎賞を受賞した話題作。1965年から1985年までの昭和後期を舞台に、様々な実在の事件や出来事を独特の視点で描き出した意欲作です。

谷崎潤一郎賞受賞作の概要

磯崎憲一郎さんが3年ぶりに発表した長編小説で、「文學界」での連載時から大きな反響を呼びました。

文藝春秋より2020年6月に刊行
全248ページの長編小説
2024年1月に文庫化

本作は、昭和後期の日本を彩った様々な事件や出来事を題材としながら、それらを独特の手法で描き出しています。著者の磯崎さんは1965年生まれ。本作で描かれる時代は、まさに著者自身の少年期から青年期にあたります。

なぜ「蒙昧前史」というタイトルなのか

「蒙昧」とは、知識が不十分で道理に暗いことを意味する言葉です。

現代を「蒙昧」の時代と位置づけ
その前史としての昭和後期を描く
歴史の皮肉を示唆するタイトル

もちろんこの頃既に、人々は同質性と浅ましさに蝕まれつつはあったが、後の時代ほど絶望的に愚かではなかった

この一節は、現代社会への痛烈な批判とも読めます。

作品の舞台となる時代背景

1965年から1985年という時代は、日本の高度経済成長期から安定成長期にかけての激動の20年間でした。

大阪万博開催(1970年)
日本初の五つ子誕生(1976年)
グリコ森永事件(1984年)
日航機墜落(1985年)

この時代は、華やかな経済発展の陰で、様々な社会問題や矛盾が顕在化してきた時期でもありました。作品はそうした時代の光と影を、独特の視点から描き出しています。

独特の文体と語りで魅せる物語の特徴

本作最大の特徴は、その斬新な文体と語りの手法です。句点をほとんど使わず、読点でつないでいく独特のリズムが、読者を物語の世界へと引き込んでいきます。

切れ目のない文章が生み出すリズム

従来の小説とは一線を画す、特徴的な文体で書かれています。

句点の代わりに読点を多用
改行を極力避けた文章構成
独特のリズムを持つ文章の流れ

この文体により、ひとつの出来事から次の出来事へと、まるで記憶の流れのように自然に場面が移り変わっていきます。読者は気がつけば、まったく異なる時代や場所の物語に導かれているのです。

実在の事件と虚構が交錯する手法

本作では、実在の事件やを描きながらも、そこに虚構を巧みに織り交ぜています。

実在の事件をベースに展開
固有名詞を意図的に伏せる手法
史実と創作の絶妙なバランス

たとえば、グリコ森永事件や日航機墜落事故などの実在の事件を扱いながら、その当事者たちの内面や、報道されなかった側面を想像力豊かに描き出しています。

実在の人物の名前は伏せられていますが、描写から誰を指しているのかが分かるような巧みな手法が用いられています。

視点の自在な切り替えとその効果

物語は複数の視点から語られ「それぞれの立場から見た昭和」という時代が浮かび上がってきます。

製菓会社社長から見た視点
五つ子の父親としての視点
帰還した元日本兵の視点
万博を見る少年の視点

これらの視点の切り替えは唐突ではなく、まるで川の流れのように自然に行われます。ある出来事の描写から、その周辺にいた人物の視点へと滑らかに移行し、そこからまた新たな物語が展開されていくのです。

この手法により、単なる事件の羅列ではない、重層的な物語世界が構築されています。

作品に描かれる昭和の重要事件

本作では、1965年から1985年までの昭和後期に起きた様々な出来事が描かれています。これらの事件は単なる歴史的事実としてではなく、その時代を生きた人々の視点から立体的に描き出されています。

五つ子誕生とメディアの暴走

1976年に日本で初めて誕生した五つ子を巡る物語は、当時のメディアの在り方を鋭く問いかけています。

父親のNHK記者としての葛藤
過熱するメディアスクラム
報道被害の実態

作品では、取材する側であった父親が、一転して取材される側となることで見えてきた報道の暴力性が描かれています。「フラッシュが立て続けに焚かれ」る場面や、盗撮を試みるカメラマンの描写からは、当時のマスコミの過剰な取材姿勢が浮き彫りになっています。

大阪万博と目玉男事件の真実

1970年の大阪万博は、高度経済成長期の日本を象徴する一大イベントでした。作品ではその裏側に隠された様々な物語が描かれています。

難航する用地買収の実態
「太陽の塔」への立てこもり事件(アイジャック事件)
万博を見る少年の複雑な心情

日本蒙昧前史
4月26日夕方、「赤軍」と書いた赤ヘルをかぶった若い男が太陽の塔(高さ70メートル)の右目部分(直径2メートル)に登り、「万博を潰せ!」などとアジ演説を始めた。塔の下には来場客が集まり、警官隊が駆けつけるなど騒然となった。 だが、子どもや若い女性、外国人が手を振ると男も悪びれずに手を振り返し、文庫本を読み始めるなどした。男は水やトイレットペーパーを持ち込んで籠城を続けたが、寒さに耐えかね、5月3日早朝に投降し、逮捕された。男は新左翼としての活動歴はあったが赤軍派とは無関係だった。 via:newsポストセブン

特に「目玉男」による太陽の塔への立てこもり事件は、当時あまり報道されなかった出来事として詳細に描かれています。作品では目玉男の生い立ちから、立てこもりに至った経緯、そして事件後の人生までが丁寧に描写されています。

横井庄一の帰還と静かな晩年

1972年、28年間にわたってグアム島で潜伏生活を送った元日本兵の帰還は、戦後日本を考える上で重要な出来事として描かれています。

グアム島での孤独な生活
帰国後の急激な環境の変化
陶芸に没頭する晩年

作品では、28年間の孤独な生活を「類い稀なる幸運だった」と感じる元日本兵の心情が繊細に描かれています。また、帰国後のメディアの過熱ぶりや、徐々に忘れられていく様子なども、時代の流れとともに静かに描写されています。

読者・書評家からの評価と感想

本作は発表直後から多くの読者、書評家から高い評価を受け、第56回谷崎潤一郎賞を受賞しました。その評価の中心となったのは、独特の文体と歴史描写の新しさです。

文体の新しさへの賞賛

特徴的な文体は、多くの読者を魅了しています。

句読点の独特な使い方への評価
場面転換の巧みさへの称賛
読みやすさと文学性の両立

書評家からは「読んでいると、心が騒ぐのだ。感情がかきたてられるのだ」(川上弘美さん)といった高い評価を受けています。また、一般読者からも「独特のリズムにのせられて読んでしまえる」という感想が多く寄せられています。

歴史と虚構の融合に対する評価

実在の事件と創作を織り交ぜた手法も、高く評価されています。

史実を基にした緻密な描写
創作による人物像の深み
時代考証の確かさ

「ノスタルジーによる美化を排した淡々としながらも緻密な細部」という評価に表れているように、安易な懐古ではない歴史描写が支持を集めています。

現代への警鐘としての読み方

本作は単なる歴史小説としてだけでなく、現代社会への問題提起としても読まれています。

現代のメディアへの批判
社会の同質性への警告
歴史の教訓としての意義

「我々は滅びゆく国に生きている」という作中の言葉は、現代の日本社会にも通じる警鐘として受け止められています。

『日本蒙昧前史』から見える現代日本の姿と課題【総括】

日本蒙昧前史

昭和40年から60年の日本社会を描いた文学的達成
句読点を独特に使用する斬新な文体
歴史的事実と虚構を巧みに織り交ぜる手法
グリコ森永事件や大阪万博など象徴的な事件の描写
五つ子誕生を通じたメディアの過熱ぶりの描写
目玉男事件による万博の裏面史の掘り起こし
横井庄一の帰還と静かな晩年の丹念な描写
第56回谷崎潤一郎賞受賞作としての文学的評価
現代社会への警鐘としての意義
歴史の美化を避けた冷静な時代描写
多層的な視点による重層的な物語構造
現代の「蒙昧」さを照らし出す歴史的考察

この作品を読み終えた方は、きっと現代の日本社会を新たな視点で見つめ直すことになると思います。私たちは今、どのような時代を生きているのか。その問いに対するひとつの示唆として、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

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